大阪市立大学における21世紀教育のスティミュレイターとして

金児 曉嗣



第三次大阪市立大学基本計画で提案された「大学教育研究センター」(以下、センターと略す)が、本年度からいよいよスタートしました。発足にあたり、あらためてその趣旨と業務内容を説明させていただきます。

設立の趣旨

社会・経済・文化のグローバル化が進み、国際的な競争がますます激化しています。そうしたなかで、大学が社会の要請に応えることのできる人材を育成することがきわめて重要な課題となっており、教育水準のさらなる向上が強く期待されています。また一方では、社会情勢の変化に伴う学生の就業意識の変容、大学に求められている地域社会への貢献、大学と高校との連携など、従前の教育体制では対応しきれない多くの問題が生じています。こうした社会的状況のなかで、学生が自ら主体的に学び、考え、柔軟かつ総合的に判断できる能力を育成するためには、高等教育の内容と制度のあり方を体系的に研究し、その成果を活かした教育改善を具体化することが求められています。

本学ではすでに第三次基本計画において、「総合大学であることの利点を活かした多様な教育」、「全学共通教育と専門教育の有機的連携」、「4年一貫教育の実質化」などが謳われていますが、このような取り組みを専門的な観点から検討する必要があります。とりわけ授業に関しては、「教育方法の改善」(FDの実施)を積極的に推進しなければなりません。

また、最近の大学改革では、教育面においても自己評価が重視されています。大学教育に関する自己評価を実質化していくための方策として、学部・学科単位の自己評価がきわめて重要であると認識されており、この自己評価はFDと一体のものであることが共通認識となっています。

このたび発足しましたセンターでは、以下の研究領域を設け、今日の大学が直面するこれらの課題に真正面から取り組み、新しい教育の創造をめざした研究を行い、それらによって得られた知見を全学に提供し、本学における教育の活性化に貢献したいと考えております。

センターの業務

高等教育の内容と制度のあり方に関する研究

大学が組織的に教育活動を強化して教育効果や効率を高め、大学の機能をより一層充実させるため、全学共通教育から専門教育、大学院教育までのつながりを考慮した高等教育のあり方、教授法などを研究します。

また、種々の選抜制度を経て入学した学生の追跡調査を実施し、その作業をとおして入試制度の改善と見直しを図ります。

さらに、大学の地域貢献が叫ばれている今日的状況に鑑み、教育面における本学の社会貢献、高校との連携のあり方を総合的に検討します。

(1) 教育制度・システムの改善

  • 教育目的・目標と教育体制との関係
    本学の教育体制、全学共通教育の実施体制、シラバスなどについて全学的な見直しを行い、本学の教育目的や目標の実現を図るために必要な教育制度について検討し、提言を行います。
  • 学生の成績評価
    学生の成績評価については、一貫性と厳格性をもってこれにあたらなければなりません。それは学生が自己の到達度を正しく理解するためにも必要です。そのためには、評価基準を明確に設定しておくことが必要です。学生にとっては学習の成果、教員にとっては指導の結果のそれぞれの反省の機会となりうる成績評価のあり方を検討します。また、学生の到達度を測るために、GPA(グレード・ポイント・アベレージ:加重平均点)制度の導入などについても検討し、大学としてどのような学生を育成するのかを示します。
  • 学生相談・学習相談システムのあり方
    厳正な成績評価とあわせて、学生に対する学習支援システムが充実していなければなりません。日常生活において個々の学生が持つ学習上の悩みに的確に応え、進むべき方向を示唆できるようなシステムづくりを考える必要があります。たとえばオフィスアワーのように、学生が気軽に教員に相談できる仕組みづくり・制度化も合わせて検討します。
  • 学部教育と大学院教育の関係
    高度専門職業人や研究者の養成が大学院教育の目的ですが、大学院教育は、研究者として持つべき深い教養、国際会議やスピーチに必要な英語表現など、学部教育と密接な関係にあります。本学としてどのような人材を育成し、専門家として社会へ送り出していくのか、という観点から両者の教育の関係のあり方について検討します。

(2) 地域貢献・他機関との連携 / 入試制度

  • 生涯教育・継続教育・大学開放のあり方
    いわゆる生涯教育を社会貢献に関する教員評価の一つとしてとらえ、市民講座など市民や地域とのつながりを考えながら、本学が果たしていく役割を検証し、時代の動きに対応できる新しい関係を構築することを検討します。また、職業倫理をはじめとする技術士の資格取得後の研鑽など、継続教育を支援するあり方を考えます。
  • 大学間連携のあり方
    現在本学では、単位互換制度の試験的実施に取り組み、学生の科目選択の幅を広げ、大学間の交流を促進し、協力体制の礎となる施策の展開を始めています。このような動きを新たな教育体制の構築につなげるという視点から、サイバー・ユニバーシティなどネットワークを用いた幅広い大学間連携も含めて検討します。
  • 入試制度とその改革 / 高大連携のあり方
    入学後教育に大きく関連する入学者選抜のあり方、高校教育と大学教育との接続のあり方を考えるほか、単に入学者選抜の多様化を進めるだけでなく、その事後の検証も行いながら人物本位の入学者選抜方法のあり方などの研究を行います。

教授法・カリキュラムの開発に関する研究

全学共通教育と専門教育とを体系的に捉え、大学院教育についても射程に入れながら、教育改善のための企画をより具体的かつ実践的に行うため、教授法・カリキュラムの開発や総合的な見直しについて研究し、本学の教育活動の充実発展をめざします。

また、大学教育が学術の発展と社会の変化に適切に対処できるように、カリキュラム編成、授業内容・方法に関する不断の点検改善を図り、21世紀における新たな教育システムの構築を図ります。

(1) 全学共通教育のカリキュラムの開発と編成

  • カリキュラムの点検
    本学の全学共通教育は平成六年度の教育課程改革によって現在の形態が確立し、今年度で一〇年目にあたります。これまでの全学共通教育の経緯をまとめ、その整理にもとづいて一定の検証を行わねばならない時期といえましょう。センターでは、本学の教養教育の目的や目標に照らしてカリキュラムが適切か否かを検討します。
  • カリキュラムの開発(外国語教育、基礎教育、総合教育科目など)/ 大学カリキュラムの全般的な調査研究
    カリキュラムの点検と併行して、あるべきカリキュラムの開発について調査研究を行い、教科会議などに提言します。とりわけ語学は、グローバル化とIT化の進行に伴うメガ・コンペティション激化の時代に生きるこれからの社会人にとって基本となるものであり、一定レベル以上の語学力を身につけさせるためのシステムを構築することが望まれます。
  • カリキュラムの編成
    全学共通教育カリキュラムの構成や区分、提供科目数、提供内容などについて検討し、教員の負担増を回避しながら、効果的なカリキュラムのあり方を考えます。
  • 全学共通教育と専門教育の有機的連携
    全学共通教育と専門教育の有機的連携の実現を図り、4年一貫教育に相応しいカリキュラムを考えます。また、学部教育として全学共通教育と専門教育の有機的な連携を実現するため、履修年次や履修順序を明示した履修計画のモデルを作成します。

(2) 授業支援システム

  • 初年次教育と学習支援のあり方
    大学初年次において、資料収集の方法や論文の書き方など、基本的な学習方法を教え導く必要性が最近多く生じています。そうした部分における効果的な学習支援の提供について研究します。また、試験対策やレポート作成にあたっての支援のあり方を考えます。
  • 新しい授業方法の開発(メディア・ミックス、参加型学習など)
    本学ではすでに、インターネット講義など電子媒体を活用した授業提供も始めています。これからのIT時代に向かって、メディアとの融合など従来の型にとらわれない、時代に即応した授業方法の開発を考えます。
  • 授業改善支援システムの構築
    これまでは、基本的に授業を担当する教員個人の責任のもとで授業が実施されてきました。しかし近年の情勢変化に伴い、そのような責任体制が結果として教育現場に混乱を来たしつつあるといえます。FDの実施主体はあくまで学部・学科にあるという認識のもとで、今後は大学として組織的に授業改善を図るシステムを構築し、センターは学部・学科に協力支援するという形で、この問題に対処していく必要があります。
     また、学生による授業評価を日常的に授業に反映できるような風土づくりが必要であり、学生の達成感をひとつの焦点とした授業改善をめざします。
  • 留学生教育のあり方
    「日本語」「日本事情」の開講、「日本語補講」の実施、「チューター制度」などの教育的支援を行うほか、日本の歴史や文化を理解するための見学会、交流会の開催など、これまで進めてきた取り組みを見直し、国際交流促進の視点から、外国人留学生が安心して勉学・研究に励めるような効果的な支援の一層の充実に向けた検討を行います。
  • 外国の教員、実践家などの人材活用
    外国人教員や社会的経験豊かな専門家の登用によって、授業内容が豊かになります。現在のところ、外国人教員は語学教育に限定されていますが、総合教育などについてもそうした人材の活用を検討します。

大学教育の評価に関する研究

高等教育の目的や役割が問い直される時代において、その教育能力を積極的に評価するシステムを早急に構築する必要があります。大学教育の評価に関する研究では、教員による自己の授業評価も含めた、高等教育のあり方や目標の多様性に応えることができる評価システムの研究開発を行います。

(1) 大学教育評価システムの研究

    まず教育評価そのものに関する総合的な研究を行います。そのうえで、個々の教員に対する業績評価は、ともすれば研究業績が重視され、教育に係る業績が適正に評価されない現状を反省材料とし、教員の教育に係る総合的な業績について実状を調査し、FD推進の一環としての教員研修につなげます。教育評価を考える際、FD活動そのものも教育評価の対象となるという視点が重要であると思われます。 点検・評価のシステムを構築する形で、センターは第三者評価にも対応可能な機関とします。

(2) 大学教育の効果に関する経年的な研究

    各年次にわたる点検・評価の報告を活かし、改善が必要な点が明確に浮かび上がるような重点的な提言を行い、教育改善につながる研究を行います。

研究成果の発信

(1) センター研究員による調査研究の成果は、研究誌の形で問われなければなりません。また、それらは情報誌などの形で本学構成員のすべてに還元される必要があります。このためにセンターでは、以下の事業を行います。

(2) 大学教育の研究を推進するために、年報として『大学教育研究』(仮称)を刊行し、センター専任教員のみならず広く内外に投稿を求め、全学的な教育研究の振興を図ります。

(3) 本学構成員に、教育改革の現状とセンターにおける研究活動等の概要を広報することを目的として、教育情報誌を刊行します。

(4) ワークショップ等を開催することによって、研究成果を本学教員に還元します。

おわりに

このたびのセンター設置にあたり、先の評議会で五名の専任研究員の配置を承認いただきましたが、スムーズな立ち上げをめざし、これまで大学教育検討委員や全学共通教育運営委員、大学評価・学位授与機構の評価委員などの任に当たってこられた経験豊富な三名の教員にセンターへの移籍をお願いしました。上記の領域2の全学共通教育については木野 茂助教授(理学研究科より転出)、FD活動を中心とした授業支援システムについては矢野裕俊教授(文学研究科より転出)、領域3の評価活動と外国語教育・留学生教育については大澤慶子教授(文学研究科より転出)が主として担当されます。

盛り沢山の事業が一朝一夕に成就されるわけではありません。また、センターの業務はもとより相互に密接に関連しあった内容を含んでいますので、実際の活動にあたってはセンターとして共同で取り組むことになります。さしあたり三名の専任研究員が協力し合い、それぞれの経験を活かしながら、できることから活動を開始しつつあります。今年度申請する予定の教育版COE(特色ある教育支援プログラム:COL)への準備もその一つです。センターの機能を十全たるものにするために、残りの二名の専任研究員の人事を進めることも今年度の大きな課題の一つです。

本学のこれからの教育を考えるうえでセンターの役割はきわめて大きく、全学の期待に応えることができるようわれわれも努力を惜しまないつもりでいます。しかし、センターが本学の教育のスティミュレーターとしての役割を果たしていくためには、教務委員会や兼任研究員をはじめ、全学のご支援も仰がなければなりません。今後のご指導とご協力を心からお願い申し上げます。






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